衆道剣風録秘話 秘密の郷



能書
 関ヶ原の戦いから数年後、天下を揺るがす秘密が或る郷に隠されているという
噂が流れていた。その郷に入った忍びはことごとく命を落としたという。
 その郷の秘密を守る少年忍者と、出羽・米沢から来た美しい男が邂逅する。
 その男が見せた必殺の太刀は後年の少年の命を守ることになる・・・



文:サー・トーマス (山野林梧様 23万ヒット記念謹呈作品)
上載 2008・7・5 (少年拷問シーン付加版
 2008・7・6更新



 高い山の山頂からその男は降りてきた。

 短袴だが、脚には皮の足袋を履き、厚い草鞋をきつく絞めて、脚絆で膝と臑の露出を防いでいる。
 山歩きに慣れているのだろう、木々のうねるような根にも苦もなく、崖の横のかなり傾斜のある山肌を降りてくる。

 大雨の後に崖が崩れその岩や倒れ木が急流の柵(しがらみ)となって流れを止めていた。
「む!」
 男はその柵に引っ掛かるようにして倒れている者を見つけた。
 それは体中に手傷を負い、虫の息の少年であった。

 彼の体を起こして顔を見ると、まだ一五、六か。後ろ髪は長く腰まである。
 前髪が乱れ、顔に掛かっているのでよくは分からないが、かなり整った顔のようだ。右手には刃渡り二尺一寸ほどの刀をしっかりと握っている。
 男はその少年を軽々と胸に懐くと川に沿って歩いていった。

「あ!」
 少年は傷の痛みに飛び上がった。目の前には知らない男が。
 反射的に少年は男の目に向けて拳を出した。
 ぱんと音がした。その拳は男の手の平で受けられ握られて動かせなくなった。
「く・・・!」
「おやおや、とんだ挨拶だな」
「お前は!?」
「・・・お前を害そうとする者ではない。崖の下で倒れていたお前を助けたのだ」
 やっと事情が飲み込めたのか、少年は体の緊張を解いた。体中が痛い。
「ここは?」
「麓の農民の隠れ小屋だろう。戦(いくさ)の時はここに避難するのだ。普段は炭焼きの宿らしい」
「どうして助けた?」
「・・・理由が要るのか?」
 少年はまじまじと片付けをしている男を見た。

 ・・・歳は三十ほどか。
 大人のくせに少年と同じように長い髪を後ろで括っている。
 体はごつごつしておらずどちらかというと撫で肩で女っぽい。顔も・・・
 少年は男の座する姿に見入った。背をぴんと反らし、その端座する姿は気高い雰囲気ががした。そしてそのかんばせは、中年というのになんと美しく優しいことか。

「俺の顔に何かついているのか?」
 男は笑った。何という菩薩のような笑みだ。
 少年は訝(いぶか)しんで尋ねた。
「・・・お前はここの土地のもんではないな?どこから来たんじゃ?」
「・・・出羽からじゃ」
「何しに?」

 男は答えを求める少年を見た。
 その吸い込まれるような深い瞳に少年は動悸を覚えた。
 男が自分で取ったのであろう薬草を仕舞いながら言った。

「・・・薬を求めに来た。我が主(あるじ)が病を得てな・・・ここは熊の胃で有名じゃろ?」
「山越えは御法度じゃぞ!」
 男はふふんと笑って、
「俺に国境など無い。山の尾根を辿って好きな所に行くのよ」
「山の者か・・・」
「昔はな。人の詮索はよして傷を治せ・・・」

 今度は男が少年の顔をまじまじと見た。
 少年はかあと顔を紅くして、思わず後ろ髪を撫で付けた。目を逸らせた。
 何かおなごになったような気がした。
 そしておずおずと男に顔を向けた。
 二人は見つめ合った。
 男は心ゆくまで少年の幼い美を堪能しているようであった。
 少年は浅く短い息遣いをしながら、痛む肉体を煎餅布団の上に起こし、膝を横に崩して座り、上目で男の顔を覗き込んでいた。

 少年の姿は、遠い昔の自分の姿を男に思い出させた。
 少年のあどけない美しさは、男がかつて持っていたものだった。
 そして辛く厳しい修行に耐え、その合間に恋をした・・・逞しく優しい仁王の様な男に。
 そこは或る非情な目的を持った漢(をとこ)たちだけの世界だった。
 本来優しい心を持った彼は、愛の庇護が欲しかった。

 彼らの唇が自然に触れた。
 どちらともなく近寄り身を寄せた。
 男はかつての自分を愛するように、少年は遠い未来の自分に恋するように・・・

 その二つの魂は触れあい震える。

 男は少年がこれから出会うだろう男を想い嫉妬した。

 少年は男が恋して焦がれた者達の影を感じ嫉妬した。
 赦さない・・・

 二人はお互いの帯を解き下帯を脱いだ。男の肉体はほどよく脂肪が付きその下の強靱な筋肉を隠していた。すでに尖った乳首に少年は吸い付いた。
「あ・・・」
 男は少年の頭を懐きさらに自分の胸に押しつけた。
「あ・・・ああ・・・」

 乳を赤子に与える母のように、男は少年に吸わせた。

 少年の手は男の股間に降りていった。そこには逞しく屹立する徴が。
 少年は膝を立てると脚を開き、それを自分の蕾に導こうとした。

「いや・・・」
 男は優しく少年を制した。
 少年はかっとして激しく言った。
「しょんべん臭いをのこは嫌か!」
 男は困った顔をして言った。
「お前の蕾は裂けているぞ・・・」
 少年はぎくっとした。
 そして昨夜の事を思いだした。


 十人の男達に捕らえられ、幾度も幾度も犯されたことを・・・
 腕を後ろ手高手にぎりと縛られ、男達の穢れた精をその腹の中にたっぷりと注がれた。ややを孕めとばかりに・・・

 隣国の間諜である荒ぶる忍達は、その侵入を知らせようと走ったこの美しい少年に容赦は無かった。

 最も太い一物の男が入った時、その柔らかい蕾は裂けた。
 だが、不覚にも・・・少年はその時に自分の求めていたものが与えられたことを知った。
 生まれてから愛を知ったことはない。人から蔑まれ、非人と言われ、若者達に面白半分に嬲られ犯され続けた。母の病の金を貰うために・・・
 だが、その瞬間だけは男達を満足させ、自分も満ち足りた。

「あ・・・あっあっ!」

 少年の茎は止めどなくそ白濁を垂らし、男達の喉を潤していた。

 後ろから責められる少年の体を起こし、男達はその乳首を吸った。
 縄で乳の上下を十文字に締め上げられ、脂肪がまだ付いたその胸は乳房のように絞り出されていた。

 忍が使う細い糸が乳首の周りに巻かれ、締め上げられた。
 二人の男が夢中になって、少年の乳首を摘み糸を引っぱれば締まるように結ぶ作業をする。

「あう!・・・やじゃ!・・・」
 両乳首がぐいと前に引かれる。後ろから長い髪を掴まれて仰け反らされる。
「くく・・・良い眺めじゃ。このままにしておけばおなごの様になるぞ」

 ぎりぎりと引かれ、飛び出た乳首と乳暈を男達は横から含み、噛むように嬲った。
 痛みと羞恥、そして何という被虐の悦楽!
 少年の肉体は燃え上がり絹のような肌が上気する。

 後ろから男達は、その鋼鉄のようなものを下に抉るように、絶えず秘部を突いた。
「どうじゃ!良いか?ふふ・・・柔らかい体じゃ・・・喉笛もまだ出ておらんし、顔もおなごの様にかわゆい」
 をのこの喜ばし方を十分に知っている連中だった。

 ふぐりのすぐ後ろの秘部を突かれる度に、少年の肉体は打ち震え、連動した両乳首の神経が、ざらとした舌に舐められる度に否応なしに逆なでされた。

 快感に叫ぼうとして開けた口を臭い口で塞がれ、継いで、その皮下帯の臭いが付いた陰茎を突き込まれた・・・
「おおう・・・この餓鬼は・・・なんと良い・・・天国じゃ!」
 夥しい汚液がその口に充ち、鼻を摘まれ飲み干した。

 同じじゃ・・・俺は・・・このままあの非人として生きていた頃と同じように、男の精を死ぬ寸前まで喰らっているのか・・・
 自由になりたくて・・・俺は村を出た。だが入ったところは俺を守ってくれる代わりに・・・人殺しを俺に教えた。

 少年の頭の中に、百姓の若者の中で唯一、優しかった男の顔が浮かんだ・・・お別れだ・・・ゴン

 陵辱の限りを尽くした男達は、酒を喰らい寺のお堂に大の字になって寝てしまった。外は激しい嵐がやって来ていた。
 少年はやっとのことで関節を外し、縄を解いた。そして隣の男の刀を奪ったが、気付かれた!飛び起きた彼らに囲まれた。
 だが・・・傷ついて精を出し切られた肉体は、限界を超えていた。
 まだ開いた蕾から男達の汚濁が滴り落ちる。
 万事休すか。

 その時、その古刹の建っていた地面が鉄砲水で崩れ落ちたのだ!


 少年は男の声で現実に戻った。

「俺には・・・今は妻と子がいる・・・」

 少年は嫉妬の目をもって男を見た。
「いやじゃ!俺はお前様のものにしてもらう!」
 男の目は少年を愛おしむ。
「・・・かつて俺にも念者がいた・・・今生の契りを結んだ」
「かつて?」
「・・・そいつは俺にをなごを娶(めあわ)せた。そして夫婦(めおと)になって子を為せと・・・」
「・・・」
「そいつは、いつの世か生まれ変わり、その子、あるいはその子の子を捜し出すと・・・」
「連理の契り・・・」
「おんなは俺を愛してくれている。俺はそれに応えたい・・・!」
 少年と男は顔を見合わせ、戸口を見た。


 男と少年の五感は、山小屋の外の異常を感知した。

 衣服を着けた男は山小屋の扉を開けた。身につけているのは二尺に満たぬ白鞘の小太刀のみ。しかもそれを背のほうの帯に差している。
 男が言った。
「忍か。三人」

 山小屋の前の木立から一人の男が出てきた。灰色の小袖にたっつけ袴。首には襤褸を巻いている。
 相手を一人と見て、二人の部下を木立に隠れさせ、誰何(すいか)しに出てきたのだ。

「我等の気配を中から察するとはお主、ただ者ではないな。他国から来た間諜に相違ないな!」
 男は微笑んだまま黙っていた。

 臆する様子は無い。少年が男の後ろから顔を出した。
「お頭!この人は俺を助けてくれました!怪しい人ではありません」
「馬鹿者め!それも術とは思わぬか!」
 少年ははっとして男を見て、その横をよろよろと歩み去り、左の庭の隅にぺたと倒れ込んだ。
 はあはあと息をしながら男と頭を見る。

「俺はもと来た所へ帰る。邪魔をするな」
「悪いがここで死んで貰う。お前が何を知ったか知らぬか、どうでも良い。ここで葬り去る!」
 男は妖しくふふんと嗤った。
「この夙谷に秘密有りと云う。その秘密が何なのか興味はない。だが、有ると言うことは確実じゃな」
「そこまでの事情通ならばますます帰せぬ!」
 頭は大刀をすらと抜いた!それを右肩の上に構えた。
 男は静かに動いた。

 すたすたと頭に向かう。だが、背の刀を抜く気配はない。
 背をぴんと伸ばし、心持ち前に体を倒す姿勢で足の裏を地面に擦り付けるように前進した。
 顔を上げ、目線は頭と呼ばれる男を見下ろしていた。
「く!」

 木立の数カ所から一斉に何かが飛んできた。だが動いている男に当たらない。
 一筋飛んできた十字手裏剣を、腰を沈み込ませるだけで男は首すれすれに躱(かわ)した。
 慌てて隠れていた男達が踏み出して来たが、その時には男は頭の前に対峙していた。
 頭と呼ばれるからは、今まで幾多の敵をうち倒してきた。
 だが、彼は今、生まれてはじめての言いようのない恐怖を覚えていた。

 敵に囲まれて窮地の筈なのに、この男は平然と歩み寄り、その姿勢、目線は全く動かず自分を見下すように睨んでいる。
 人と人とが真に相対することは意外に少ない。
 特に忍びとして育てられた自分は、敵を威(おど)し、騙し、そのすきを狙って急所を攻撃することに慣れている。

 だが、この敵にはそれが全て通用しないという恐怖が湧いてきた。男は両手に何も持っていないのに。
 男がすっと左足を前に出した。少し目を伏せお辞儀をする様に。頭は男の頭が自分の一刀足中に入ったことを知った。
 緊張の頂点に達した人間は、それまでに勝利を収めた方法を再演しようとしていた。

「死ね!」
 頭は迅雷のように右足を踏み出しそれと同時に右肩を廻し大刀を振り下ろそうとした!
 その瞬間、男の体が前に跳んできた。いや、正しくは水平に左足の踵で地を蹴って、前に出たというべきか。

「!」

 頭は男の頭を斬るには、間合いが近すぎることを感じた。だが、もう遅い。
 後は渾身の力で振り切るのみ。

「でやっ」
 頭の大刀は虚しく空を切った。
 刀の鍔もとに近い刃が男の顳谷(こめかみ)に当たろうとした寸前、男は身を沈めそれを躱したのだ。


 男は頭の横に立ち、俯いたように見えた。何かを後悔するように。
 どすと重く繋がるものが下に落ちる音がした。

「新陰流、無刀より入る霞の太刀・・・」
 その流儀の名を聞いて、頭の目が恐怖に見開かれた。
 頭の横腹は、男の小太刀で横に切り裂かれていた。
 そしてその目は失血と臓物が失われた虚無感の中で徐々に白目を剥く。その場に崩れ落ちた。

「赤目の頭!」
 部下の忍び達は頭の報復の為に身構えた。
「止めろ!」
 男が高く通る声で言った。
「お前等が守るべきものは他にあろう!今死ぬべきか考えろ!」
 その言葉に彼らはたじろぐ。

 暫く睨み合っていたが、じりじりと退き始め、遂には全員が木立の草むらに隠れ、気配は無くなった。

「お前は・・・」
 少年は近づく男に恐怖し肩の傷を庇いながら後ろにいざった。
 男の右手には、背に差していた小太刀が逆手に握られ、鮮血が滴り落ちていた。
 山小屋の納屋の前に掛かっていた襤褸を取り、それを拭う。
「俺も・・・かつては縁のない人達を殺めた・・・」
 男は少年を見ぬようにして言った。

「だが、小吉は俺を救ってくれた・・・そして生きよと・・・お前にはその権利があると・・・」
 男は白鞘にぱちんと小太刀をしまう。
「お前は自由だ」

 そう言い残すと男はくるりと背を向け、山の方に向かいだした。
「待って!俺も連れてって!」
 だが男は振り返りもせず去って行く。
「・・・俺は貴方を捜し出す!掟を抜けても!」
 山小屋が森の中に隠れて見えなくなった。
 だが甲高い声が竜胆丸を追った。

「俺の名はカムイ!きっと探し出す!・・・」





壁紙:春うさぎ様からお借りしました。

白土先生〜ご免なさい〜!

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