春の風
文 斗升屋 2010/4/20
絵 山野凰琳

              

 そよそよと心地良い風が長い髪を戦(そよ)がせる
 まだ冷たい草の下の土が風呂上がりの体に気持ちよい

 待ち人はまだ来ない
 俺はいつまでも待ってられるだろうか

 俺がもし一刻でも遅く生まれていたら
 あいつとは逢えなかったかも知れない

 「お前が女に生まれていたら儂の手には届かなかったじゃろう」
 あいつはそう言った

 そんなの嫌じゃ!
 俺はこの幸せを永遠に掴んでいたい!

 だが朝(あした)になれば
 俺達は戦の鬼となる

 前田慶次様は自らの義を果たすため
 小吉は前田様との主従の契りを果たすため
 俺は・・・

 この一瞬の幸せをこの胸に抱いて
 をのこの性を小吉に捧げそして死ぬ
 小吉は俺を思い出してくれるだろうか


 一筋頬に伝わる清らかな涙は
 知らずの内に膝に乗った雀に落ちた

 ちゅん

 雀は驚き見上げるが
 逃げる気配はとんと無い

 「小吉!」
 今度は雀は飛び立つ春の空

 小吉は離れた木陰に立っていた
 「・・・お前が何か・・・とても優しくて尊く見えての・・・」

 「馬鹿!」
 小鳥は濡れた草を蹴り小吉の胸に飛び込んだ

 懐の小さな生きものを慈しむように大男は懐く
 (・・・そして儚く思えた・・・儂の阿修羅!離さぬ!)

 これから春が過ぎ熱い合戦の時が迫る
 それを知る恋人達は抱き合ったままいつまでも動かない